人生の途上で、どうしても乗り越えられない「巨大な壁」にぶつかり、立ち尽くしてしまうことがあります。
仕事の挫折、失われていく人間関係、将来への底知れない不安。
見上げるほど高く、分厚く、冷たい壁を前にしたとき、胸の奥を締めつけるのは「もうこれ以上、頑張れない」という深い無力感です。
かつての私も、まさにその壁の前にいました。
人生の探求のなかで、私は何度も壁に爪を立て、血をにじませながら垂直によじ登ろうとしては
力尽きて真っ逆さまに転落することを繰り返していました。
「もっと努力しなければならない」「早く結果を出さなければならない」「何者かにならなければ居場所がない」
そうやって自分を責め立て、焦れば焦るほど、目の前の壁は高く険しくそびえ立っていったのです。
もし今、そんな途方に暮れるような重圧の中にいるのなら
まず、その固く握りしめた拳を開いてください。
まず、深く息を吐く。
苦しんでいるのは、意志が弱いからでも、努力が足りないからでもない。
ただ、「壁との向き合い方」を少しだけ勘違いしていただけかもしれません。。
直角の壁を登ろうとするから、人は途中で力尽きる
何度も心身ともに擦り切れ、生きる道を見失いかけていたとき
私の人生の恩師は、静かに語ってくれた教えがあります。
それが、「ドミノの法則」でした。
恩師はある日、目の前の机の上に一本のペンを立てて、私にこう問いかけました。
「健くん、目の前にそびえ立つ直角(90度)の壁を、人はなぜ必死に登ろうとすると思うんでしょう?
それはですね、、『手っ取り早く、最短距離で向こう側へ行きたい』という人間の欲と焦りがあるからなんです。。
けれど、直角の壁を腕力だけで登り切れる人間なんて、ほんのひと握りしかいない。
多くの人は途中で握力を失い、力尽きて落ちて、自分を無能だと責めてしまいます」
恩師はそう言うと、立ててあったペンを、指先でトンと斜めに倒しました。
「壁はね、登るものじゃありません。
あらかじめ大変さを受け入れて、壁を斜めに倒してください。
そうすれば、壁は『登るべき障害』ではなく、自分の足で一歩ずつ歩いていける『ゆるやかな坂道』に変わります」
「大変さ」を受け入れた瞬間、壁は坂道に変わる
直角(90度)の壁を、そのまま登ろうとすれば、すさまじい腕力と気合が必要になります。
しかし、その壁をパタンと斜めに倒したとしましょう。
角度が45度、あるいは30度のスロープ(坂道)になれば
特別な超人技などなくても、自分の足で、荷物を背負いながら
息を乱さずに歩いて登っていくことができます。
進む距離は、垂直に登るよりも3倍、4倍と長くなるかもしれません。
時間もかかるでしょう。
泥臭い歩みになるかもしれません。
けれど、「確実に、一歩も転落することなく、壁の向こう側へ辿り着く」ことができる手段です。
言い換えれば、継続しやすくなるとも言えます。
多くの人が挫折してしまう本当の理由は、「壁の高さ」にあるのではないという考えです。
「すぐに結果を出したい」「苦労をせずに近道を通ってワープしたい」と、直角のままの壁に挑むからです。
あらかじめ、「時間がかかること」「地道な一歩の積み重ねが必要なこと」を、腹の底で静かに受け入れる。
その覚悟を決めた瞬間、巨大に見えていた壁は音を立てて倒れ、あなたの足元に続く「一本の確かな道」へと姿へ変わるかもしれません。

今日できる、たった一枚のドミノを倒すこと
ドミノ倒しを思い出してみてください。
一番最後にある巨大な板を、指先一つでいきなり倒すことはできません。
体力、才能、やる気が続くならやっても構わないと思います。だけど、、
私たちができるのは、目の前にある、手のひらに収まるほどの「小さなたった一枚のドミノ」を、静かに倒すことだけです。
その小さな一枚が倒れれば、その振動が次の一枚へと伝わり、やがて連鎖が起き、信じられないような巨大な壁をも押し倒していく。
今、目の前にある問題のすべてを、今日中に解決しようとしなくていい。
人生を劇的に変える奇跡を、今日起こそうと力む必要もない。
- 今日一日、自分の身体のために温かい食事をゆっくり味わうこと。
- 荒れていた机の上を、無心で拭き清めること。
- 焦りで浅くなっていた呼吸に気づき、深く息を吐き出すこと。
そんな、誰の目にも留まらない「小さな一枚」を、淡々と倒してみる。
その静かな一歩を、世界は決して見捨てていないはずです。
直角の壁を登るのは、今日でおしまいにしてみる。
壁を倒し、足元に現れた坂道を、ただ一歩ずつ。
あなたの歩みには、それだけの確かな価値がある。
【調律を深める推薦図書】
思索をさらに深め、日常の揺るぎない土台を作るヒント。
時折、読み返している3冊の本です。
『道をひらく』松下幸之助さん
「自分には自分にしか歩めない道がある」。
行き詰まりを感じた時、何度開いても背筋が伸び、足元を照らしてくれる大人のバイブルです。
『生き方』稲盛和夫さん
人間として何が正しいのか。
小手先の成功法則ではなく、泥臭い日々の労働と誠実さの中にこそ魂の磨き所があることを説いた名著。
『運命を拓く』中村天風さん
絶望の淵から立ち上がり、絶対積極の境地を拓いた天風哲学の真髄。
心が弱気や焦りに傾いた時、内なる力を呼び覚ましてくれます。